取調べの可視化

結論)自白映像で犯罪認定「違法」 取り調べの録音・録画 栃木女児殺害,改めて無期 東京高裁平成30年8月3日判決,一審判決破棄

自白の信用性を判断する補助証拠として採用した取り調べの録音録画映像で,犯罪事実を直接的に認定したことには法令違反がある。

理由)取り調べの録音録画の映像について

 地裁判決は,録音録画された取り調べの映像で認められた被告の供述態度に基づき,被告の犯人性を直接的に推認している。

 先の刑事訴訟法の一部改正は,容疑者の取り調べの適正化を図るために行われた。一方,録音録画された取り調べの映像で被告の様子を見て,自白供述の信用性を判断しようとすることには強い疑問がある。

 なぜなら,被告の自白が自発的なものか,という単純な観点で結論を導くことにつながる危険性があるからだ。自己に不利益な虚偽供述をする契機は様々で,自発的であっても,虚偽供述の可能性が見落とされる危険性もある。

 自白の信用性を判断するには,供述が強制されたものでないことは当然の前提とした上で,秘密の暴露の有無,客観的な事実や他の証拠との整合性など,第三者にも検証可能な判断指標を重視し,自白から適切な距離を保ち,冷静に熟慮することが肝要だ。

 ところが,録音録画された取り調べの映像による評価は,真実を述べているように見えるか,という判断者の主観に左右される。印象に基づく直観的な判断となる可能性が否定できない。映像で判断したことが,自白の信用性に関する地裁判決の誤りの要因の一つと考えられる。

以上,朝日新聞デジタルから引用

取調べの可視化の問題点を,自白法則から観察した裁判例であると考えます。

自白+補強証拠=自白法則=自白だけで有罪とされることはない。

ところが,

自白+自白映像が,補強証拠を満たしているか=自白法則違反ではないかということです。

今から20年ほど前,強姦事件について,卑劣な逃げ口が流行しました。

強姦した後に,被害女性に笑顔を作らせて,笑顔写真を何枚か撮影しておくというものです。

人は,恐怖のどん底に陥ると,強いられるままに笑顔を作るという共通認識がなければ,この笑顔写真をして,強姦の合意=和姦であったと認定されてしまいそうです。

20年ほど前は,携帯写真の時代であり,最後に微笑み写真を撮影するという手口でした。

強姦の一部始終ではなく,その最後の場面であれば,如何様にも加工できる=和姦であるかのようにでっち上げられるということです。

現在では,写真を何枚も撮影し,あるいはスマートフォンで録画して,これをインターネット上にばらまくという恐怖感を植え付けて,発覚を免れようとする手口に変わってきたようです。

さて,東京高裁判決に接して,強姦最後の微笑み写真を連想しました。

一審の裁判員裁判では,7時間以上の取調状況録画フィルムが流されたとのことですから,一瞬の微笑みを写真撮影して切り取るという手法とは,違います。

だが,自白映像をいくら積み重ねても,それは自白供述映像に過ぎず,補強証拠がない。

つまり,自白調書を70通積み重ねたところで,補強証拠がなければ,これだけで有罪認定は出来ないと言うことだと考えます。