無車検による逮捕(認知症)
車検が切れた車を運転したとして,認知症の疑いがある神奈川県鎌倉市の無職の男(69)を,神奈川県警が道路運送車両法違反(無車検)容疑で現行犯逮捕し,車を押収していたことが6日,わかった。
県警は「車を運転させるのは危険と判断した」としている。逮捕は7月30日。
大船署によると,男は30日午前10時頃,自宅近くの市道で車検が切れた乗用車を運転した疑い。
TITLE:認知症疑いで車検切れの車運転,男逮捕し車押収 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
URL:https://www.yomiuri.co.jp/national/20180806-OYT1T50121.html
ギリギリの選択であり,賛否の分かれるところだと考えます。
法律論からすると,逮捕の理由と必要があったのかが問題となります(刑事訴訟法199条参照)。
逮捕の理由とは,特定の犯罪に関する相当な嫌疑を意味します。
本件では,無車検運転の現行犯人逮捕ですから,逮捕の理由が存在することは明らかです。
逮捕の必要とは,逃亡のおそれ又は罪証隠滅のおそれがある等のため,身体の拘束が相当であることを意味します。
本件で,この二つの要件を具備していたか否かは微妙なところです。
但し,かような背景事情があったようです。
男は7月上旬,同県藤沢市の自動車販売店で車検を更新しようとしたが,認知症が疑われたため,同店が鎌倉市に相談。
市から連絡を受けた同署や親族が運転をやめるよう説得したものの,応じなかった。
このため,同署は男が自宅から車を走らせたところを逮捕した。
男は翌日釈放された後,病院で認知症と診断されたという。
TITLE:認知症疑いで車検切れの車運転,男逮捕し車押収
この背景事情に照らすと,無車検運転を継続実施する可能性があり,逮捕の必要性がないわけではなかったと考えます。
家族の説得に応じていたら,無車検運転をすることはなかったであろうに,説得に耳をかさなかったからです。
この無車検運転かつ認知症運転で人身事故を起こしたならば,本人は,危険運転致死傷罪で処罰されることとなるでしょう。
また,無車検車であるから,自賠責保険(強制保険)に加入できず,任意保険にも加入できません。
本人に資力がなければ,交通事故被害者は,保険による賠償も受けられず,踏んだり蹴ったりの目に遭います。
この保険適用の側面から実質的に考えると,現行犯人逮捕及び1日間の留置は,ショック療法としてやむを得ない措置ではなかったのかなと考えております。