避難距離

原子力政策について思う・・・大いなる自戒をこめて

もと福島地方検察庁郡山・白河支部庁検事です。

福島を第ニの故郷のように思っております。

相馬のぶどうえびは,もう食べられないのでしょうか。

原子力など,故手塚治虫鉄腕アトムの世界だけです。

ヒトは,原子力を制御できるほど賢い生物ではありません。

役人あるいは役所の実態は,福岡法務局訟務部付検事時代に散々味わいました。

長崎原爆訴訟(松谷訴訟)にも,被告国として関与しました。

当時,DS86を信じた自分を恥じておりますが,未だかような公式文書が出回っております。

TITLE:原爆放射線について|厚生労働省

URL:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/genbaku09/15e.html

DS86を極めて簡略化して表現するならば,距離基準です。

行政が,原爆症認定をする際,なんらかの基準がなければ恣意的認定との非難を免れませんから,基準を設けること自体が不合理だとは申しません。

原爆症認定のための一定の症状+半径2キロ以内という距離基準(DS86)を設けたため,この距離基準から離れて被爆された松谷さんの原爆症認定却下処分が争われました。

私は,控訴審途中から訟務検事の一員として関与致しましたが,被告国の敗訴でした。

福岡高等裁判所 平成5年(行コ)第17号 原爆被爆者医療給付認定申請却下処分取消請求控訴事件 平成9年11月7日判決

なお,上告審判決の要旨は,次のとおりです。

原爆被爆者医療給付認定申請却下処分取消請求事件

【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/平成10年(行ツ)第43号

【判決日付】 平成12年7月18日

【判示事項】 原子爆弾被爆者の医療等に関する法律八条一項に基づく認定の要件であるいわゆる放射線起因性の意義及びその立証の程度

【判決要旨】 原子爆弾被爆者の医療等に関する法律八条一項に基づく認定の要件であるいわゆる放射線起因性は、原子爆弾放射線被爆者の現に医療を要する負傷又は疾病ないしは治ゆ能力低下との間に通常の因果関係があることを意味し、右認定拒否処分の取消訴訟において、被処分者は、右因果関係について高度の蓋然性を立証することを要する

この最高裁判所判決の中で,DS86という距離基準は,以下のとおり評価されています。

「DS八六もなお未解明な部分を含む推定値であり、現在も見直しが続けられている

ことも、原審の適法に確定するところであり、DS八六としきい値理論とを機械的に適用することによっては前記三1(七)の事実を必ずしも十分に説明することができないものと思われる。例えば、放射線による急性症状の一つの典型である脱毛について、DS八六としきい値理論を機械的に適用する限りでは発生するはずのない地域で発生した脱毛の大半を栄養状態又は心因的なもの等放射線以外の原因によるものと断ずることには、ちゅうちょを覚えざるを得ない。」

距離基準という言葉で,川内原発再稼働問題における避難区域をお考えになられる方も多いことでしょう。

私も,半径50キロ圏内の居住者であり,非常用持出袋や非常用食糧(3泊用リュック・50リットル収納)を準備し,米や水を備蓄しています。

だが,非常用品を準備してみたところで,いったい何処へ非難すれば良いのか皆目解りません。

原子力政策について,意見が分かれるところであることは承知しております。

だが,避難距離に関する議論さえなされていないこと,そして避難距離を如何に定めようが,我ら鹿児島市民に逃げ場所などないことだけは心しておく必要があるように思います。