頭の体操・犯罪の成立について
頭の体操・犯罪の成立について
愛知県常滑市のコンビニエンスストア店内で販売中のおでんを指で触り,店の業務を妨害したなどとして,愛知県警は15日,同市00町0丁目の無職甲野太郎容疑者(28)を器物損壊と威力業務妨害の疑いで逮捕し,発表した。「間違いありません」と容疑を認めているという。
TITLE:コンビニおでんを「ツンツン」 業務妨害容疑で男を逮捕:朝日新聞デジタル
URL:http://digital.asahi.com/articles/ASJDG72P6JDGOIPE038.html…
こういう単純な案件ほど分析すると面白い結果になります。
まず,器物損壊について
損壊とは,物質的に毀損することを要しない。
他人の飲食物に放尿することは損壊に該当する・・・大審院明治42年4月16日判決
損壊とは,単に物質的に器物その物の形態を変更又は滅壊せしめる場合のみならず,事実上若しくは感情上,その物をして再び本来の目的の用に供し能わざる状況に至らしめたる場合をも包含するものとす(原文は,旧字標記)。
感情上となるとかなり微妙です。
指先でツンツンする行為も,コンビニ店にとっては売り物にならないから,損壊にあたると評価したのでしょう。
だが,「感情上」を拡大解釈すると,「串カツのタレ・二度付け厳禁」と看板に書かれた店で,看板標示を認識した上で,あえて二度付けしたならば,器物損壊罪に問われてもやむを得ないということになりそうです(3年以下の懲役・30万円以下の罰金・科料)。
大皿に取り箸が添えてあるのに直箸を使ったら同席者との関係で器物損壊罪が成立する?など「感情上」を拡大解釈するべきではないでしょう。
次に,威力業務妨害について
威力とは,人の意思を制圧するに足りる勢力をいうのであって,おでんツンツン行為が威力に該当するとは考えにくいと思います。
最高裁判所第2小法廷昭和28年1月30日判決
「威力」とは,犯人の威勢,人数および4囲の状勢よりみて被害者の自由意思を制圧するにたる勢力を指称する。
広島高等裁判所昭和28年5月27日判決
甲は,乙が製材業務を営むため甲方附近の山林に製材機を搬入しようとしていたのに対し,乙が約束に従いそれまでに同山林で製材した鋸屑を片付けていないため甲方の飲料用水に流出する虞があるとしてこれを詰責すべく「製材機はここからは入れさせぬ,入るなら他から入れ,入つても仕事はさせぬ」などと乙を困惑させるような不当のことを申向け,乙をして右製材機の搬入を中止させたが,【客観的に見ていまだ甲が乙の自由意志を制圧するに足る威力を用いたとは認め難い場合】には,刑法第234条の業務妨害罪には該当しないけれども軽犯罪法第1条第31号違反罪が成立する。
よって,おでんツンツン行為は,「威力」の行使には該当しないようです(法234条)。
では,法233条の「偽計」に該当するのでしょうか。
偽計とは,相手方に対すると第三者に対するとを問わず,人を欺罔・誘惑しあるいは人の錯誤・不知を利用する違法な手段をいうと定義されているようです(団藤・各論533ページ)。
そうすると,「偽計」にも該当しないようです。
成立するとすれば,前掲の軽犯罪法1条31号 他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者(拘留又は科料)でしょうか。
次に罪数ですが,おでんツンツン行為という1個の行為であるから,器物損壊罪と上記軽犯罪法違反が成立し,両者は,一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合として観念的競合の関係に立ち,重い器物損壊罪の刑で処罰されるという結論となりそうです(3年以下の懲役・30万円以下の罰金・科料)。
なお,新聞報道では,建造物侵入罪について触れていませんが,おでんツンツンという違法行為=正当な理由のない侵入であるから,建造物侵入罪が成立します。
但し,その法定刑は3年以下の懲役又は10万円以下の罰金です。
建造物侵入と器物損壊は,犯罪の手段と結果(牽連犯)関係に立つと考えられますが,重い器物損壊の刑で処断されるので立件する実益はないということだと思います(54条)。