姦通罪

編笠をすこしかたむけよき君はなほ紅き花に見入るなりけり

(大意)編笠を少し傾けて,監獄に咲く赤い鳳仙花の花を見つめている俊子の美しい姿が歌われている(前掲書68ページ)。

留置場に入る際,明治・大正期には,編笠を被せられた。

現代でも,警察署によっては,被疑者の顔が世間に晒されぬように,レインコートのような布で顔をすっぽりと覆う配慮をするようなものだと思われます。

この句には,かなりの演出が施されているように思われると,注解者も述べているようです。

人妻との愛を貫くには,「スキャンダラスに報道された自らの恋愛を,芸術作品として昇華」させる必要があったのでしょう。

恋愛が姦通罪として処断される時代において,煉獄に落ちる覚悟なしには為し得ぬ行為であったということだと考えております。