アパートは,現住建造物である。

アパートは,現住建造物である。

放火犯人一人だけが居住する一軒家に放火しても,非現住建造物放火罪です。

だが,たまたま住民全員が留守をしていても,かねて住居として使用していた以上,現住建造物です。

ましてや,本件では一階に家族が居住し,二階にも他の家族が居住していたのであるから,アパート全体が一個の現住建造物です。

この点,堅固なマンションの一室であり,延焼可能性がほとんど考えられない防火構造の建物であって,放火犯人一人が居住する部屋の一部に火を放ったという事案について,非現住建造物放火未遂とした裁判例が散見されます。

しかしながら,下記最高裁判所判例の立場からすると,堅固なマンション一室であっても全体を一個の現住建造物と観るのが妥当かと思われます。

【事件番号】 最高裁判所第3小法廷決定/昭和63年(あ)第664号

【判決日付】 平成元年7月14日

【判示事項】 複数の建物が廻廊等により接続されていた神宮社殿が一個の現住建造物に当たるとされた事例

【判決要旨】 本殿、拝殿、社務所等の建物が廻廊等により接続され、夜間も神職等が社務所らで宿直していた本件平安神宮社殿は、全体として一個の現住建造物に当たる。

【参照条文】 刑法108

【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集43巻7号641頁

       最高裁判所裁判集刑事252号307頁

やはり問題となるのは,故意です。

母親及び他人である二階家族に対する殺意をどう裏付けるのか報道だけでは全く解りません。

まさか,現住建造物放火で起訴して,殺人の点を不問に付するというお考えなのでしょうか。

あり得ないことですが,かような処分をしようものなら,少なくとも二階で延焼による巻き添えとなって亡くなられた三名の遺族の納得は得られないでしょう。

被害者の尊厳及び被害者遺族の保護を無視した偏頗な起訴であるとの非難は免れないように思います。

さらに故意の中身をどう捉えるかについても問題があります。

もしも,延焼可能性を認識しているだけであれば,なかなか殺意(認容しかも限りなく意欲に接近した認容)を認定することは困難でしょう。

二階への延焼可能性及び延焼すれば深夜の睡眠時間帯であり,二階の他人家族が死亡することも解っておりましたし死んでも構わないと思っておりましたという調書を作成することは簡単ですが,すぐに法廷でひっくり返るでしょう。

だからといって,睡眠時間帯の現住建造物放火を万一起訴することがあるとするならば,なかなか困難な公判維持が予想されます。