無断駐車
「所有者には自分の土地を承諾なく利用されない権利がある」
TITLE:無断駐車やめさせるため提訴,200円賠償命令 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
URL:http://www.yomiuri.co.jp/national/20161215-OYT1T50110.html?from=ytop_main3
時々,無断駐車車両は,発見次第タイヤの空気を抜き,罰金3万円を支払って貰いますといった看板を見かけます。
まず,タイヤの空気を抜く行為は,違法な自力救済と評価され,逆に損害賠償の対象となるでしょう。
次に罰金を支払う旨の看板ですが,土地所有者とドライバーとの間に罰金支払い契約は成立していません。
いうまでもなく,ドライバーは,看板を無視しているのです。
したがって,罰金を支払うという意思の合致がないから,契約責任は生じません。
そして土地所有権侵害としての損害賠償義務が発生しますが,その金額は,通常損害額です。
近隣のコインパーキング料金を参考にして算出した金額が損害金額となります。
無断駐車の結果,自分の車を出すことが出来ず商談に遅れて数億の損害が生じたた場合,これは特別損害となります。
しかしながら,通常の場合,特別損害が発生する事情を知らず,知るよしもないのであるから,ドライバーが負担するべきは,通常損害額が限度です。
裁判所も,近隣コインパーキング料金(おそらく1時間当たり300円)を参考にして,40分間の損害金200円の支払いを命じたものです。
土地所有者の立場からするとなんとも承服し難い結論ですが,不法行為法の理論をそのまま適用すると,このような結論にならざるを得ないと思われます。
交通事故の定義
交通事故の定義
駐車場内におけるドア開扉と当て逃げ事案
交通事故とは,道路における車両等(中略)の交通に起因する人の死傷又は物の損壊をいいます(道路交通法67条2項)。
次に,運転とは,道路において,車両等をその本来の用い方に従って用いる事をいうと定義されています(法2条1項17号)。
さらに,運転手には,ドア開閉時の安全確認義務が課されており(法71条4号の3),ドアの開閉は,運転行為に当たります。なお,道交法上の道路は,道路法等で定められた道路のみならず,一般交通の用に供するその他の場所を含みます(法2条1項1号)。人や車両が往来し,交通事故が発生する可能性があるからです。したがって,駐車場も道路です。
いわゆる当て逃げ行為(物損事故における危険防止措置義務違反)については,法117条の5第1号・72条1項前段に該当し,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金となり,犯則点数は5点です。なお,犯則点数につき,物の損壊に係る交通事故を起こした場合における法72条1項前段の規定に違反する行為(道路交通法施行令の一部を改正する政令・昭和43・10・1・政令298号)。
ドア開扉時における安全確認義務(反則点数2点)と当て逃げ(危険防止措置義務違反)は,別個の行為であり,加算されると考えます。
目撃供述の信憑性
無罪となった一事例・目撃供述の信憑性
犯人と被告人との同一性=犯人性立証は,刑事事実認定の要であると考えます。
ごくありふれた窃盗事件ですが,目撃者の犯人識別供述が争われた事案です。
犯人識別供述の信用性を確保するために,通常は,写真台帳(年格好が類似する多数人の顔写真が添付されたもの)を使用するのですが,本件では,直面割りをするなどしたため無罪となった事案です。
なお,判決書は,極めて細かな事実認定をしておりますが,プライバシー保護の見地から結論部分のみ紹介致します。
以下,判決文からの要約引用です。
人の同一性の識別を内容とする供述については, 比較対照という判断作用を伴うことなどから, 不正確な観察や記憶の減退・変容,他からの暗示や誘導等によって容易に誤認するおそれがあるなど,それ自体に内在する固有の危険性がつとに指摘されている。
したがって, その信用性については慎重に吟味していく必要がある
警察官は,目撃者に対し,単独面通しに先立ち, 「この間言った犯人を捕まえましたので,本人であるか確認をしてくれ」 などと,目撃者に強烈な暗示,誘導を与えかねない発言をしている。 確かに,目撃者は,面通しに際してはあらかじめ被告人を犯人とは決めつけていなかったとは述べているが, 意識の上はそうであったとしても, 無意識のうちに被告人が犯人に間違いないとの先入観を持った可能性は残るのであり,結局,本件において犯人選別手続が適切になされたとは言い難い。
目撃者の識別供述には数々の問題点があることからすると,その信用性については,多分に合理的な疑いを容れる余地があるというべきである。
以上のとおりであり ,被告人を犯人とする目撃者の識別供述をそのまま信用することは困難であり,同供述から被告人を犯人と断定することはできない上, 被害届に記載された犯人の人相,着衣等が被告人のそれと一応符合するとしても,比較的ありふれた容貌, 容姿が符合するにとどまり,これにその余の証拠から認められる事実関係を加味しても, これらはいずれも被告人を犯人と結びつける推認力はほとんどないから, 結局,被告人が本件窃盗事実の犯人であると認めることはできない。
したがって, 本件窃盗事実については犯罪の証明がないことになるから, 刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
よって, 主文のとおり判決する。
刑法の適用範囲
海外カジノ・ブックメーカーを日本国内から利用する場合の違法性
通信回線を利用すれば,海外カジノを利用することも可能でしょう。
ところで,「この法律は,日本国内において罪を犯したすべての者に適用する(刑法1条・国内犯処罰の原則)」と定められております。
ここで罪を犯したとは,実行行為の一部でも日本国内で発生すれば足りるとするのが判例・通説です。
青酸カリ入りのお菓子を日本国内から国際便で郵送して,国外でこれを食べた被害者が死亡すれば,立派な殺人罪です。
これと同様に,通信回線を利用すれば,日本国内から海外カジノに対して,即座に賭けをすることが出来るし,ブックメーカーに対して,勝利チーム予想を送信することも可能でしょう。
この勝利予想を送信する行為自体が,賭けの実行行為であり,これが日本国内で敢行された以上,刑法1条の国内犯の原則どおり,処罰の対象となると考えます。
なお,日本国民が,例えばマカオのカジノで賭博(日本国刑法185条・186条に該当する行為)をしても,国民の国外犯(3条)に規定されておらず,日本国刑法の適用はないと考えます。
TITLE:刑法
東京裁判
東京裁判全4集を一挙に視ました。
1)事後法の禁止
行為時に犯罪とされていない行為について,事後的に法を制定し,遡及して処罰することは出来ないという大原則です。
不戦条約が国家間の侵略戦争を禁止したと解釈しても,あくまで対象となるのは国家であり,不戦条約は,個人の刑事責任を定めたものではないとする解釈です。
2)天皇の戦争責任
大日本帝国憲法上,天皇は国家元首にして統治権の総覧者であり(4条),陸海軍の最高責任者にして統帥権者です(11条)。
東條英機が,当初,日本国民は,天皇の赤子にして天皇の意思に反して行動することは無いと証言したのももっともなところです。
ところが,天皇の戦争責任を追及したくないという思惑からか,証言を撤回し,開戦の詔勅において,天皇は戦争を避けたかったのであると付加したと証言しています。
天皇の戦争責任については,あっさりと処理されましたが,事後法の禁止については,なかなかに説得力のある議論が戦わされております。機会があればご覧下さい。
採尿手続
採尿手続
事実関係の詳細が明らかではありませんが,ASKAさん方自宅における採尿は,地域課の警察官が実施したように思えます。
「手元を見ていない」など通常のプロフェショナルである薬物対策担当警察官による採尿手続ではありません。
さらに,通常は逮捕後にも尿を採取するのが一般ですが,組織犯罪対策5課では,これを実施しなかったようです。その理由は解りません。
通常は,採尿状況報告書が作成されます。
そこには,採尿容器が空であることを確認し,これを水洗いし,その容器内に放尿したことが写真撮影され,本人の直筆で,採尿日時,署名,指印して,容器を封印します。
そして,尿の任意提出書,その尿の領置調書(押収です),鑑定嘱託書が作成されて科警研に送られ,鑑定員が始めて直筆封印された採尿容器を開け,これを鑑定します。
このように採尿された尿と鑑定された尿の同一性が証拠上保たれるのが一般です。
本件では,肝心要の出発点である採尿手続に問題があり,逮捕後の尿を採取しなかったという手続上の問題点があると思えます。
頭の体操・犯罪の成立について
頭の体操・犯罪の成立について
愛知県常滑市のコンビニエンスストア店内で販売中のおでんを指で触り,店の業務を妨害したなどとして,愛知県警は15日,同市00町0丁目の無職甲野太郎容疑者(28)を器物損壊と威力業務妨害の疑いで逮捕し,発表した。「間違いありません」と容疑を認めているという。
TITLE:コンビニおでんを「ツンツン」 業務妨害容疑で男を逮捕:朝日新聞デジタル
URL:http://digital.asahi.com/articles/ASJDG72P6JDGOIPE038.html…
こういう単純な案件ほど分析すると面白い結果になります。
まず,器物損壊について
損壊とは,物質的に毀損することを要しない。
他人の飲食物に放尿することは損壊に該当する・・・大審院明治42年4月16日判決
損壊とは,単に物質的に器物その物の形態を変更又は滅壊せしめる場合のみならず,事実上若しくは感情上,その物をして再び本来の目的の用に供し能わざる状況に至らしめたる場合をも包含するものとす(原文は,旧字標記)。
感情上となるとかなり微妙です。
指先でツンツンする行為も,コンビニ店にとっては売り物にならないから,損壊にあたると評価したのでしょう。
だが,「感情上」を拡大解釈すると,「串カツのタレ・二度付け厳禁」と看板に書かれた店で,看板標示を認識した上で,あえて二度付けしたならば,器物損壊罪に問われてもやむを得ないということになりそうです(3年以下の懲役・30万円以下の罰金・科料)。
大皿に取り箸が添えてあるのに直箸を使ったら同席者との関係で器物損壊罪が成立する?など「感情上」を拡大解釈するべきではないでしょう。
次に,威力業務妨害について
威力とは,人の意思を制圧するに足りる勢力をいうのであって,おでんツンツン行為が威力に該当するとは考えにくいと思います。
最高裁判所第2小法廷昭和28年1月30日判決
「威力」とは,犯人の威勢,人数および4囲の状勢よりみて被害者の自由意思を制圧するにたる勢力を指称する。
広島高等裁判所昭和28年5月27日判決
甲は,乙が製材業務を営むため甲方附近の山林に製材機を搬入しようとしていたのに対し,乙が約束に従いそれまでに同山林で製材した鋸屑を片付けていないため甲方の飲料用水に流出する虞があるとしてこれを詰責すべく「製材機はここからは入れさせぬ,入るなら他から入れ,入つても仕事はさせぬ」などと乙を困惑させるような不当のことを申向け,乙をして右製材機の搬入を中止させたが,【客観的に見ていまだ甲が乙の自由意志を制圧するに足る威力を用いたとは認め難い場合】には,刑法第234条の業務妨害罪には該当しないけれども軽犯罪法第1条第31号違反罪が成立する。
よって,おでんツンツン行為は,「威力」の行使には該当しないようです(法234条)。
では,法233条の「偽計」に該当するのでしょうか。
偽計とは,相手方に対すると第三者に対するとを問わず,人を欺罔・誘惑しあるいは人の錯誤・不知を利用する違法な手段をいうと定義されているようです(団藤・各論533ページ)。
そうすると,「偽計」にも該当しないようです。
成立するとすれば,前掲の軽犯罪法1条31号 他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者(拘留又は科料)でしょうか。
次に罪数ですが,おでんツンツン行為という1個の行為であるから,器物損壊罪と上記軽犯罪法違反が成立し,両者は,一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合として観念的競合の関係に立ち,重い器物損壊罪の刑で処罰されるという結論となりそうです(3年以下の懲役・30万円以下の罰金・科料)。
なお,新聞報道では,建造物侵入罪について触れていませんが,おでんツンツンという違法行為=正当な理由のない侵入であるから,建造物侵入罪が成立します。
但し,その法定刑は3年以下の懲役又は10万円以下の罰金です。
建造物侵入と器物損壊は,犯罪の手段と結果(牽連犯)関係に立つと考えられますが,重い器物損壊の刑で処断されるので立件する実益はないということだと思います(54条)。